「純さんっ!」
「うおっ!」
廊下を歩いていた伊佐敷の目の前に突如、小柄な少女が現れた。いきなりのことで避けきれず突進をされるはめになってしまった。少女はニコニコとした笑顔で伊佐敷を見上げていた。
「またテメーか!!」
「テメーじゃないですですぅ」
「黙ってろ!」
「いやーん、もう怒った純さん素敵すぎです!」
「からかってんのか」
「からかってなんかないです。私はいつでも真面目です」
少女はといって、入学してからこの一年間というもの、毎日伊佐敷の目の前に現れては「怒った純さん素敵です」と目を輝かせて言っている。でもちゃんとした告白など一度もしていないので、本気で男として伊佐敷のことを見ているのか、はたまた憧れの先輩という風に見ているだけなのかは未だに分かっていない。
最初は伊佐敷もどう対処していいかも分からず照れ隠しに顔を真っ赤にして怒鳴っていたが、今では慣れてきてしまいに一日一回は怒鳴ることが日課のようになってきてしまった。
「はっは!また純さんにまとわりついてんの?」
「あ。御幸」
「おいっ御幸!こいつどうにかしろ」
「こいつじゃないですですってば!」
「るせぇ!!」
「ったく、も毎日ご苦労だな」
「だって一日一回は純さんの顔みて一日一回は純さんに怒鳴られたいんだもーん」
「お前はMか・・・」
「やだ御幸!君はそういうことしか考えてないんだぁ!へんたーい。だから新しい彼女できないんだよ」
「余計なお世話。つか次の授業始まるから教室戻るぞ」
「えーやだぁ!もっと純さんと・・・」
「やだじゃねぇ!俺だって授業あんだよ!テメーの相手なんかしてられねぇ」
「冷たーい」
「ほら戻るぞ」
「さっさと行け」
「はーい・・・・・。純さんまた会いにきますね!」
「もう来るな!!」
伊佐敷に怒鳴られてもは逆に嬉しそうに満面の笑みで周りにハートを撒き散らしながら手を振り続けた。伊佐敷はそんなことにも目もくれずにさっさと背を向けて自分の教室目指して歩き始めた。
***
放課後、日直の仕事が残っていたと御幸は教室で日誌を書いたり黒板拭きをしていた。日誌を書くのはの担当。御幸は黒板拭き担当・・・のはずだがまともに仕事をやるわけもなくささっと拭いて終わりにし、すぐさまの隣の席へと腰を下ろした。いつものことなのではなんの文句もいわなかった。
「なぁ、」
「ん?」
「なんでお前そんな純さん好きなの?」
「えーなんでってそりゃあ純さんめちゃくちゃカッコいいんだもーん!世界一カッコいい!フォーリンラヴ!」
「趣味わりぃ・・・」
「なんか言った?」
「いや、別に〜。てかさ、お前の純さんに対する『好き』ってなんなの?」
「なんなのって・・・・なんなの?」
「(質問返しかよ)・・・つまり、本気なのか、単なる憧れなのかってこと」
「え?何今更。本気に決まってるじゃん」
「わかりづれーよ・・・お前の本気」
「わざと分かりづらくしてるんだもーん」
「は・・・?なんで」
「だって純さんが本気でこんな私みたいな子相手にしてくれるわけないじゃん。だったらしつこくまとわりついて周りでヒョコヒョコしてるほうが純さんのそばにいられるでしょ。告白して断られたらそこで終わりじゃん?私ショックで一生純さんの顔みれないと思うし」
「って意外に女の子らしーとこあんだな」
「『意外に』は余計だよ!」
が口を尖らせながら、会話中に仕上げた日誌を閉じるとシャーペンを筆箱の中にしまった。そしてその筆箱を鞄の中にしまうと席を立ち、御幸に帰ろうと一言告げると、御幸からは返事が返ってこなかった。不思議に思って座っている御幸の顔を覗き込んだ。
「御幸・・・?」
「あのさ」
「え?」
「純さん諦めてるんだったら俺にしなよ」
御幸がいきなり顔をあげてきたかと思えば、右腕を引っ張りを自分の方へと引き寄せた。突然のことでバランスを崩して御幸のもとへ倒れこみそうになったものの、掴まれていなかった左腕で近くにあった机で体を支えてなんとか耐えることが出来た。
「ちょっ・・・何?」
「あーそんなに俺んとこ倒れこむの嫌?ショックー」
「ふざけてるの御幸」
「俺はいつでも本気だよ。お前と一緒で」
「・・・・・」
「さっきも言ったけど、純さん諦めてるんなら俺と付き合ってよ。俺ずっとのこと好きだった」
御幸は椅子から立ち上がりの首の後ろに手をまわすと顔を近づけた。御幸の顔がどんどんとに近づきあと数センチで唇が重なるというところで御幸の口元に何かが覆いかぶさった。がとっさに手で御幸の口を塞いで抵抗をしたのだ。御幸はそんな行動をとられ小さくため息をついた。そしては手をゆっくりとどかした。
「ごめん、悪いけど、私には純さんしか見えてないから」
「・・・ったく、俺のが何倍もいい男だと思うけど。勿体ねぇー」
「なにその自信」
はくすりと笑い「残念でした御幸くん!」と肩にポンっと手をおき鞄と日誌を手にして教室から出て行った。その背中を見つめることもなく御幸はただひとり教室でぽつりと立っているだけだった。
「残念でした・・・か。あーあ、ほんと残念だよ」
***
「純さん」
「あ?」
「俺昨日、にキスしようとしました」
「!?・・・・キ・・・・!?」
部活の休憩中、御幸が隣に座ってきたかと思えばいきなり発言してきたことに伊佐敷は驚きをかくしきれず、目を丸くし大声をあげようとした。しかし周りに部員も大勢いるのに気づきなんとか抑えることが出来た。
「でも断られました。『私には純さんだけ』とか言って。あーあ、男としてほんと情けねぇ」
「・・・・へぇー・・・・(ホッ)」
「今純さんちょっとホッとしたでしょ?」
「は!?し、してねーよ」
「ふーん(分かりやすい人)」
「なんだよ?」
「いえ、別に」
「・・・・」
「純さん」
「あ?」
「のこと本気で狙っちゃっていっスカ?」
「は・・・なんだよいきなり」
「純さんのこと興味ないみたいだし、俺ずっと好きだったんですよ。だから、」
「・・・・・・めだ・・・・」
「え?なんかいいました?」
「それは・・・・だ」
「え?」
「だから!それはだめだってつってんだよ!!」
響き渡る伊佐敷の声に部員全員の目線が集まったことはいうまでもない。周りの部員は「喧嘩か?」とヒソヒソと話していたりもしたが、伊佐敷がキッといつもの睨みをきかせ「見てんじゃねー!」といつものように怒鳴ると部員達はいっきに視線をそらした。
「はっはっはっ、純さんなにもそんなに怒鳴らなくても」
「うるせー」
「素直じゃないんだから」
「うるせー!!」
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