「あれー?御幸くんは?」
「うそっ、今日まさかいないの・・・?ショック」

グラウンドの前を囲む女の子達の会話が耳に入ってくる。いつもは野球部の練習とか見たりするの興味ないんだけど、たまたま大勢のギャラリーに目が行って足をとめてしまった。練習している一群メンバーに黄色い声をあびせているグループと、御幸がグラウンドに姿をみせていないことにショックをうけているグループ。この子らみんな野球部ファンですかっ!すごいですね!ていうか御幸にこんな大勢のファンがいたんて知らなかった。確かにあいつはかっこいい。野球やってる姿なんてもっとかっこいいだろう。けど、私は昨日の放課後にヤツの本性をみた。この目でしかと見たのだ。このギャラリーの子達は御幸の本当の姿をしっているのか!?いや、知るはずがない。知ってたら『顔はいいけど性格不細工』として罵られこれだけのファンは集まらないと思う。ヤツは悪魔だ!!見ればファンの子達はどの子も可愛い子ばかりだった。みんな騙されていることに気づいていない。なんて可哀想なんだ。
そういえばさっきも言っていたが当の本人が見当たらない。私は別に見たいわけでもないのだが、今日は普通に学校生活を送っているのを見た。あくまで見ただけ。昨日のことがあってから私は御幸を極力避けるように生活をした。一日に五回以上は必ず会話をしていた私達。でもその光景がピタリとやんで友人に「喧嘩した?」とまで心配されたが、喧嘩なんて範囲のものではない。教室で気楽に「はっはっは」と笑う御幸にとてつもなく腹が立って仕方が無かった。その隣で「ヒャハハ」と笑う倉持にも腹が立った。なんなんだよ二人して耳障りな笑い方しやがる!!全てのことを思い出しながら一人で眉間にしわをよせて立っていると、後ろからいきなり肩をつかまれ、突然の出来事に肩をすくめた。そして耳元で声がした。

「なに今日みにきてくれたの?」
「ひっ・・・!」
「あれ、もしかして耳弱いとか?」
「・・・・・・みゆき・・・・・」
「はっはっは」

犯人は御幸だった。こいつとは絶対に関わりたくないと思ってたのにコノヤロー!してやったりというような顔をしながら盛大に笑ってて本当にここまで心底むかついたことはなかった。とりあえずそのまま無視して帰ろうとしたら「ちょっと、無視は酷いんじゃね?」と腕を掴まれた。御幸ファンの女の子たちが御幸に気づいたのか、こっちをみてヒソヒソと話し始めた。あれは御幸について話をしてるんじゃない。確実に私のことだ!御幸ファンにしてみれば私の存在=誰あの女である。私はこいつと関わる気ないのに周りはすぐに勘違いを始める。とてつもなく泣きたくなった。お願いだからその手をはなしてください御幸さん!このあと御幸ファンに呼び出されてリンチとかほんと勘弁ですから!御幸のためにボコられるのほんとに勘弁ですからぁぁぁあ!!

「離してくださいませんか御幸くん」
「だって離したらお前、俺のことまた避けるじゃん」
「(コノヤロ・・・!)部活に早く戻らないとじゃないんですか」
「目見ていってくれないと」
「どうして目をみる必要があるんですか」
「会話にはアイコンタクトが必要だからだよちゃん」
「だったらあそこにいるあんたのファンとやってりゃいいんじゃないんですか」
「俺ああいうキャピキャピした子達苦手なの」
「とかいって、あんな可愛い子達に囲まれて内心ニマニマのくせに」
「まぁ悪い気はしねーな」
「(コイツゥゥゥゥゥ!!)」

「あの、御幸先輩」

私がキレる寸前のところで後ろから突然男の子の声が聞こえた。少しだけ低めの、いい声をしていて、思わず振り返ると、そこには背の高くて綺麗な顔立ちをした『クールビューティー』という言葉が似合いすぎるほどの男の子が立っていた。その子もユニフォームを着ていて、一目見て野球部だと分かった。御幸のことを先輩と呼んだのだから一年生なのだろう。彼は私の存在に気づくと浅く、ペコリと頭を下げた。私もついつられて頭を下げる。すると彼は御幸に視線を戻したのだけれど、私の視線は彼から一時も離すことが出来ずにいた。

「そろそろ部活・・・」
「ああ、悪ぃ」
「どこ行ってたんですか」
「ちょっと礼ちゃんのとこ。部活前にスコアブック貸してもらいたくてな」
「僕、投げたくて仕方ないんですけど」
「あーあー、悪かったよ!」

さっきの彼の『投げたくて仕方ない』という言葉でピンときた。この間クラスの子が野球部にすごいかっこいい一年生がいて、しかもその子はピッチャーでとんでもない球を投げるって言ってたのをたまたま聞いていたことを思い出した。きっとこの子だ・・・!やたら騒いでるからどれだけかっこいいのか気にはなっていたけど、うん、確かにかっこいい(しかも結構私のタイプだったりする)とんでもない球とかそこらへんはよく分かんないけど『とんでもない』というぐらいだからさぞ、すごい球を投げるのだろう。でもそのすごい球を御幸はいつも受けてるってこと?てことは御幸まじですごいんじゃないの?あーなんか腹立つな。
彼が来てくれたおかげで御幸は私の腕を開放してくれた(でもまだ女の子の視線が痛い)

「じゃあな、。あんまかまってあげられなくて悪かっt・・・」
「 さ よ な ら 」
「はっはっは!つれないなー」
「そんなことよりあの子待たせちゃ駄目でしょ。それじゃあね」

「?」
「 ま た あ し た ☆ 」

御幸はウィンクをしながら私に手を振ってきた。うわ、こいつまじでむかつくんですけど!今すぐにでも殴ってやりたいという衝動をどうにかおさえて、私はグラウンドに向かう二人の背中を見つめていた。二人というより、私の視線は彼だけに集中していた。
その日私の頭の中から一年生の彼のことが頭から離れることはなかった。

「あの子の名前なんていうんだろ」