カキーン・・・
あ、これまたでっかいの打ったもんだ。「きゃー!」と女の子の黄色い声が校庭に響き渡る。先週からはじまった体育は野球。3クラスずつ合同でやるので野球部が見事に集中して集まる。女の子はもう釘付け(かっこいいから仕方ないけど)さっき見事なホームランをかましたのは伊佐敷純。見た目ただの柄の悪いにーちゃんだけど野球やらせたらそれはもうすごいらしい。私はそういうことに疎いというか、詳しくは知らないけどあの人数を率いる青道野球部で一群に昇格してるってことはかなりの腕の持ち主だということは分かる。グラウンドで毎日激しい練習してるもんなぁ・・・私は見ているだけで目が回っちゃうけど。
伊佐敷くんはゆっくりと走ってベースをまわり、ホームへかえると同じクラスの男子とハイタッチ。楽しそう・・・。別のクラスの男子からはブーイングの嵐「野球部手加減しろよー!」ごもっともだと思う。その男子達に対して伊佐敷くんは「俺はいつでもフルスイングだコラァァァァ!!」突然吼えた。よくわかんないけどそうらしい。体育なのに気合がすごい。しかも次の打順も野球部で、野球部主将の結城くん。落ち着いた雰囲気を漂わせていてほんとーにタメですかと聞きたくなる。顔もキリっとしたすごいいい顔立ちをしているし、バッドを構える姿も物凄く様になっていた。もちろん女の子からはバッターボックスに立っただけで黄色い声が飛んできていた。私もほんとは応援したくて仕方が無い。でも自分はそんなキャラでもないしみんなみたいにキャピキャピなんて出来ない。だから放課後の部活の時間も見に行ったことは一度も無かった。一度も無かったけど、私は結城くんのことをずっと前から知っていた。結城くんが野球部で目立ち始めるちょっと前から知ってたんだ。
心の中でかっこいいかっこいいかっこいいって何度も呟きながら結城くんのことをみんなよりも隅で見つめていた。心臓がバクバクして、痛いほどだった。あ・・・私こんなに結城くんのこと好きだったんだ。これなら結城くんのボールに当たって死ねるのも本望かもね。カキーン・・・といい音を鳴らしてボールが飛んできた。・・・・ 飛 ん で き た ? 頭上から野球ボールが振ってきたのは目で確かめられたけど、体が動かずにそのボールが顔に直撃した。あんな冗談いってたからかな・・・。私は痛さのあまりにその場にしゃがみこんだ。周りにいた女の子達が私に気づいて寄ってきてくれた。

「〜〜〜〜ったぁ・・・・!!」
さん大丈夫!?」
「・・・う、うん・・・おでこにあたっただけだから」
「でも一応保健室行った方がいいよ」
「あ ありがと」

「大丈夫か?」

声だけでわかった。結城くんだ・・・。結城くんが私を心配してきてくれたんだ!て喜びたかったけど、痛さのあまり喜べない。嬉しいのか悲しいのか、気持ちは半々だった。結城くんは私のまん前に同じ様にしゃがみこむと顔を覗きこんできて、それだけでも心臓はやばいというのに、額を押さえていた手をどけられ私の広い(と思う)額に手をそえられてこれはもう興奮せずにはいられなかった。

「腫れてはいないみたいだな。念のため保健室に行った方がいいな。俺もついていく」
「えっ!?いいよ、いいです!ほんと大丈夫だから・・・!」
「駄目だ。今は大丈夫でもあとで腫れてくる可能性だってある」
「だったら一人で行くんで」
「俺にもぶつけてしまった責任がある」

なんて頑固な・・・!頑固っていうか責任感が強いだけ?結城くんは先生に事情を話しにいくと、「結城が連れて行ってくれるなら安心だ」なんて笑ってた。野球部からだけじゃなく教師からも信頼されてるみたい。すごいひとだよ結城くん。
てか先生が私を保健室へ連れて行けばよかったのでは?と気づいた時にはすでに保健室の前に立っていた。


保健室の前まで行ったら、ドアに『出張でいません』と書かれた画用紙がつるされてあった。これじゃ仕方ないし、どうせ保健室も開いていないだろうと私は帰ることを前提に、回れ右をして一歩踏み出した。だけど、結城くんは「保健室の鍵を借りてくる」と、そんな私に一言残して職員室へと歩いていってしまった。保健の先生いないってことは・・・ふたりきりですよね?そうですよね!?このまま帰ってしまおうか、校庭に逃げてしまおうか、なんて考えたけど、そんなことしたら結城くんにすごく悪いし、結城くんの厚意をあだで返すようなことして人間としてもどうなのよって話になる。結果、待ってることを選択した。そんなに時間もたたずに結城くんは鍵をもって戻ってきた。鍵を開けながら「またせて悪かったな」の一言をいうと保健室へと入っていった。全然まってなんかいないし、謝る必要も無いのに・・・。私も結城くんの後ろについて入っていくと、どくとくの薬の匂いが私達を包み込んだ。

「すまなかったな」
「いや、私があんな隅にいたのが悪いんだし。ボールに当たったのは私の運が悪かっただけ。結城くんは悪くないよ」
「そんなことはない。俺がちゃんと気づいてさえいればボールももっと違うところへ飛ばせたんだ」
「(飛ばせたんですかっ!)」

さすが野球部。飛ばせる方向をコントロールできるらしい。あーなんかそういうことサラッと言われるとかっこいいって思っちゃうよ!実際かっこいいんだけどさ。
結城くんは棚をあさりはじめ、私はなにか手伝おうかと思ったりもしたが、結城くんのことだから「座っていればいい」と言われるのが分かっていたので大人しく座ってまっていることにした。一応怪我人だしね。

「そういえば」
「?」
「話すの久しぶりだな」
「え・・・・」
「覚えていないか」
「う、ううん!覚えてる!ちゃんと覚えてるよ!」
「確か一年の時だったな」

随分前の話なのに覚えてくれていたんだ・・・。胸が暖かくなった。
結城くんがまだ野球部でまだあまり目立っていなかったときに、私は出会った。一年のとき、本を読むことが大好きだった私は図書室の本を何冊もかりて、返却期限が切れていたことをすっかり忘れていて、昼休みに慌ててその本たちを抱えて廊下を歩いていた。分厚い本が何冊も積み重なっていたので重さのあまり私の体が右へ左へ・・・他の通行人の邪魔でしかなかったことに今更ながらに反省する。図書室のドアが見えて、あーやっと着く!と思って嬉しくなって小走りになって前なんて全然みてなかったから、
ドカッ・・・・バサバサバサ・・・・
誰かにぶつかった。本が廊下に散らばった。それはもう見事なまでにあちこちに。私はとにかくぶつかったひとに謝ろうと、私より背の高いその人を見上げた。黒髪の短髪で、どこにでもいるような高校生・・・でも視線が重なった瞬間だった、私は恋におちた。謝ることも忘れてその人のことを見つめたままでいた。すると彼は口元を少しだけ笑わせて「そこの本、一緒に運びましょうか」と言ってきた。ハッとして懸命にぶつかったことを謝ると彼は何も言わずに首を振り、本を一緒に拾ってくれ、図書室まで運んでくれた。
それから大分たって、彼が有名になり始めた。後々、私はとんでもないひとに恋をしてしまったんだと、気づくことになった。

「あの時はほんとにごめんね」
「いや、たいしたことは無い」
「痛かったんじゃない?あんなたくさんの本に激突させちゃって」
「あれぐらいで痛がってたら、青道の野球部はつとまらない」
「(それは結城くんだけじゃないのかな)」
「それよりも湿布」
「ん?」
「貼るぞ」
「えっ、いいよ!自分で・・・」

私が言い終える前に結城くんはペタリと私の額に湿布を貼った。湿布は冷たいはずなのに、そんな冷たささえ今の私には全く感じ取れなかった。結城くんがすぐに目の前にいて、こんなに近くにいて、優しくしてる。こんなことだったら毎日でもボールに当たってもいいと思った(あ、でもそんなことやってたらさすがに死ぬか)二年越しの想いは未だに伝えられていない。あの時以来一度も話してないんだから当たり前なんだけど。結城くんが遠い存在になってしまったのも一つの原因でもある。まぁ最初から近い存在でもなかったのだけれど・・・。

「女子の顔にボールをぶつけてしまったんだ。何かさせてくれ」
「そんな、いいって!私も昔、激突しちゃったんだし」
「それとこれとは話が別だ」
「別・・・なのかな」
「何か、ないか」
「なんでもいいの・・・?」
「あぁ」

なんでもいいなら。今が私の想いを伝えるチャンスなのではないのかと、結城くんの貼ってくれた湿布に手をそっと添えて、深く息を吸い込んで思い切って言った。

「じゃあ、メールアドレスを交換してくれませんか!」


二年越しの想い・・・まずはここから、ね。





チャンスは頭上から


降ってきた